ナノペーパーが半透明になる理由
ナノペーパーは、パルプ原料の種類によって、クリア透明(低ヘイズ値)や半透明(高ヘイズ値)なものが得られる(図1)。従来の報告では、セルロースナノファイバー繊維幅が透明ナノペーパーのヘイズ値に影響を与えるという説明されてきた。一方、最新の報告によると、未解繊パルプの存在がヘイズ値悪化の主因であるとされている。本節では、その報告をもとにナノペーパーのヘイズ値が悪化する理由を解説する(Doi:10.1038/srep41590)。
図1 半透明ナノペーパーと透明ナノペーパーの一例
既往の報告によると、ナノファイバーの繊維幅が10nmから50nmに増加すると、ナノペーパーヘイズ値が20%から49%へ増加すると報告している(Zhu et al., 2013)。そこで、ヘイズ86.6%, 383.%, 5.5%と大きく異なる3種類のナノペーパーにおいて、FE-SEM観察を行った(図2)。しかしこれらのナノペーパーでは、ヘイズ値が大きく異なるにもかかわらず、いずれも幅3-15nmのセルロースナノファイバーが確認された(図2 a-c)。そもそも、出発材料である木材パルプ繊維は、幅3-15nmのセルロースナノファイバーが集合して、マイクロサイズの中空円筒状の形を作っている。したがってこのような高倍率で観察すると、当然ながら、いずれのナノペーパーでも幅3-15nmのセルロースナノファイバーしか確認できない(「ナノファイバー、どこにある?」を参照)。また、ナノペーパーの光散乱は、セルロース繊維の隙間に存在する空隙とセルロースナノファイバーの屈折率差によって生じることが知られている(「透明ってナニ?」、「複合材料とナノペーパーの違い」を参照)。そこで、ナノファイバー同士の空隙に注目してみた。しかし、いずれのナノペーパーにおいても、同じ大きさの空隙(数十nm)が存在していた。私達が作製したヘイズの異なるナノペーパーでは、ナノファイバーの繊維幅と繊維間の空隙サイズのいずれも同じであり、既往の論文で指摘されている光散乱増加の原因は見当たらなかった。したがって、「セルロースナノファイバーの横断面が光散乱を生じるため、ナノペーパーのヘイズ値はセルロースナノファイバーの繊維直径に依存する」という従来の仮説は限定的なものと考えられる。
図2 ヘイズの異なるナノペーパ-表面の電子顕微鏡像
(a,d:ヘイズ86.6%、b,e:ヘイズ38.3%、c,f:ヘイズ5.5%)
上谷らは、パルプ繊維へ機械的解繊処理を行うと、パルプ繊維は切断されて数ミクロン幅のフラグメントになり、それらフラグメントから幅15nmのナノファイバーが離脱すると報告している。そこで、マイクロサイズのフラグメント(未解繊パルプ)の存在を確認するために、2,000倍という低倍率でこれらのナノペーパーを観察した(図2d-f)。ヘイズの小さな透明ナノペーパーの表面を観察しても、マイクロサイズのフラグメントが見つからず(図2f)、横断面を観察すると緻密に積層したナノファイバーレイヤーが確認できた(図3b)。一方、ヘイズの大きな透明ナノペーパーの表面を観察すると、ヘイズの増加とともに未解繊パルプが多数存在していた(図2 d, e)。ヘイズ86.6%の半透明ナノペーパーの横断面を観察すると、扁平に潰れた未解繊パルプが確認できる。本来、パルプ繊維は中空円筒の形をしており、中心部に内腔とよばれる空隙が存在する。パルプ繊維へ機械的解繊処理を施すと外周部からナノファイバーが離脱していき、未解繊パルプには内腔が残存している。そして、ナノペーパー内部で扁平に潰された内腔は、入射する光を散乱させるには十分な空隙サイズであり、その結果、ナノーペーパーはヘイズ値が大きくなる。
図3 ヘイズの異なるナノペーパ-の横断面電子顕微鏡像
(左:ヘイズ86.6%、右:ヘイズ5.5%)
以上をまとめると、半透明ナノペーパー(高ヘイズナノペーパー)は、幅3-15nmのセルロースナノファイバーとマイクロサイズの未解繊パルプから構成されている。未解繊パルプは扁平な形状に潰されているが、潰された内腔がナノペーパー内部で光散乱を生じている。
© Department of Functionalized Natural Materials ISIR, Osaka University