1-2. 複合材料とナノペーパーの違い
セルロースを用いて透明な材料を作成する方法は、以下の3つがあります。
1. セルロースを溶かして作ったプラスチック セロハンやセルロースアセテートなど。
2. 透明プラスチックにセルロースナノファイバーを混ぜた透明複合材料
3. セルロースナノファイバーだけを使った透明な紙(透明ナノペーパー)
以下、それぞれ透明になる原理を簡単に説明します。
1. セルロース系プラスチック
コットンやパルプを特殊な用材で溶かしてプラスチックにしたものです。セロハン(図1)やセルロースアセテートなどフィルム状のものが多いです。いずれも、内部に空隙がなく光散乱を起こさないため、無色透明な外観です。
セロハン詳細情報(フタムラ化学さんHP)
http://www.rengo.co.jp/products/functional/cellophane.html
セロハン詳細情報(レンゴーさんHP)
http://www.futamura.co.jp/cellophane/index.html
図1 セロハン(フタムラ化学HPより)
2. セルロースナノファイバー複合透明プラスチック
こちらで説明したように、透明なものが透明なものの中に入っていても、わずかな光の反射で目に見えます。もし透明なものが無数にあると、光が乱反射して、「白色」 の外観になります。したがって、「無色透明」なガラス繊維強化プラスチックは存在しませんでした。しかしセルロースナノファイバーは幅が非常に細いため、光が乱反射することなく透過していき、「無色透明」な外観となります(図2)。
図2 セルロースナノファイバー補強透明プラスチック(上左)とその透明メカニズム(下 水色:プラスチック、黒:セルロースナノファイバー、橙:透過する光)
複合透明プラスチックはセルロースナノファイバーの隙間(上右)に透明プラスチックを充填します。そのセルロースナノファイバーは光の波長よりも細いので(下)、プラスチックとセルロースの屈折率に関係なく、多くのプラスチックを透明補強することが可能です。
少し詳しく説明すると。。
プラスチックとガラス繊維の屈折率を1/00-1/1,000の桁まで合わせ込むと、「透明」なガラス繊維強化プラスチックになります。 一方、セルロースナノファイバーはその径が細いため、屈折率の合わせ込みが1/10程度で十分です。ナノファイバーは屈折率依存性から解放されます。
もう少し詳しく説明すると。。
プラスチックは、数十℃の温度変化で簡単に屈折率が変動します(1/100程度)。したがって、たとえ「透明」なガラス繊維強化プラスチックを作っても、夏や冬になると、それは「不透明」なガラス繊維強化プラスチックになってしまいます。 一方、セルロースナノファイバー複合プラスチックは、屈折率依存性から解放されているので、春夏秋冬、いつでも「透明」です。
3. 透明な紙
濾紙や画用紙など一般的な紙は、セルロース繊維だけでできており、プラスチックや接着剤などの異物は使用していません。それらの紙は、髪の毛程度の太さのセルロース繊維を使用しているので、繊維同士に数十ミクロンの隙間(空隙)ができます。その空隙が光散乱を生じるため、紙は「白色」に見えます。
そして透明な紙(図3上左)は、同じようにセルロース繊維だけでできていますが、その幅が3-15nmと非常に細いセルロースナノファイバー(図3上右)を使用しています。そのように細いセルロースナノファイバーは、繊維同士がびっしりとくっつきます(図3下 灰色)。その結果、透明な紙の内部では、その空隙が光の波長より小さく(図3下 白)、光が散乱することなく透過して(図3下 橙色)、その外観が「透明」になります。
以上をまとめると、複合透明材料では「セルロースナノファイバーが細いため」光散乱せず、透明な紙では「空隙が小さいため」光散乱しません。このように、同じような材料ですが、そのメカニズムは全く異なります。
図3 セルロースナノファイバー補強透明プラスチック(上左)とその透明メカニズム(下 灰色:セルロースナノファイバー、白:繊維同士の隙間、橙:透過する光)
【注】上右のセルロースナノファイバーは、顕微鏡観察しやすいように、目一杯、隙間をあけた状態で撮影しています(撮影サンプルは白色です)。
© Department of Functionalized Natural Materials ISIR, Osaka University