セルロースナノファイバー製造方法
セルロースナノファイバーとは、木材をはじめとする植物細胞壁の基本骨格であり、その幅はわずか4-15nmである。樹木は階層構造を有しており、植物細胞壁で合成されたセルロースナノファイバーは、樹木の内部で幅数十マイクロの細胞壁・パルプ繊維を形作っている(図1)。したがって、セルロースナノファイバーを製造するためには、セルロースナノファイバーを切断・溶融することなく、効率的に植物細胞壁やパルプ繊維を解繊処理する必要がある。このセルロースナノファイバーを植物細胞壁から単離する技術は、東京大学磯貝グループのTEMPO酸化触媒で化学的処理する方法(Saito 2006)や京都大学矢野グループの機械的な方法(Abe 2007)などにより確立されている。
京都大学 阿部らは、湿潤状態の木材パルプ繊維へ機械的な解繊処理を行って、幅15nmのセルロースナノファイバーへと分散させた(図2)。この際、解繊処理装置・解繊処理方法はあまり重要ではない。最も重要な点は、木材細胞壁からリグニンは完全に除去し、ヘミセルロースは残存させた状態で機械的な解繊処理することである。過度にヘミセルロースを除去したり、解繊処理前に精製パルプを乾燥させると、パルプ繊維が角質化して、幅15nmのセルロースナノファイバーが得られにくくなる(Iwamoto 2009)。
一方、東京大学 齋藤らは、TEMPO酸化触媒で化学処理したパルプ繊維を、幅3-4nmのセルロースナノファイバーへと独立分散させた(図3)。この方法の最も優れた点は、化学処理によってパルプの機械解繊エネルギーを大幅に減少させたことである。TEMPO酸化ナノファイバーは、電気二重層斥力によって互いに孤立分散しやすくなる。この「化学処理による電気二重層斥力の付与」という知見によって、カルボキシルメチル化処理など、数多くのセルロースパルプ化学処理が提案されている。さらに、エビやカニなど甲殻類外皮を構成するキチンナノファイバーも酸性条件下では電気二重層斥力が生じるため、軽微な機械的解繊処理によってキチンナノファイバーが得られる(Fan 2008, Ifuku 2010)。
図1 樹木からセルロース分子鎖までの階層構造
cited by M. Mitov in Soft Matter 2013, 13, 4176-4206
the original artwork by Mark Harrington, Copyright University of Canterbury, 1996.
図2 機械的処理によって解繊した幅15nmのセルロースナノファイバー(京大生存研 阿部賢太郎准教授 提供)
図3 TEMPO酸化処理によって解繊した幅4nmのセルロースナノファイバー(東大農 齋藤継之准教授 提供)
© Department of Functionalized Natural Materials ISIR, Osaka University