紙・ナノペーパーは高耐熱性材料である。
フレキシブルフィルムを電子デバイス用透明基板として利用するには、その上に導電性パターンを作製する必要がある。近年のプリンテッド・エレクトロニクス技術の進歩により、そのプロセス温度は150~200℃まで低下してきた。したがって、連続的なロールトゥーロールプロセスを実現するためには、150℃で加熱しても高透明性・平滑性を保持するフレキシブルな透明基板が必要とされている。本節では、プリンテッド・エレクトロニクスの観点から眺めたナノペーパーの耐熱性を紹介する。
多くのプラスチックは150℃以上で加熱すると変形・黄変する。一方、紙は耐熱性の低い材料と誤解されがちであるが、実は非常に耐熱性の高い材料である。確かに、光沢紙や写真紙などは加熱するとすぐに変色するが(図1. 左)、それはこれらの紙の表面をコーティングしている各種ポリマー材料が黄変しているのである。紙の主成分であるセルロースは、300度付近にガラス転移温度・熱分解開始温度が存在する(窒素ガス雰囲気下)。したがって、表面コーティングしていないナノペーパーや濾紙・画用紙などのパルプ紙は、200℃程度で加熱しても黄変しない(図1. 右・中央)。
より詳細な検討として、透明プラスチックとの比較を行った。PETフィルムは高フレキシブル性・高透明性・低コストなど優れた特徴を有するため、プリンテッド・エレクトロニクスにおいて最も有望視されている基板である。耐熱性向上処理を行っていない無垢なPETフィルムを大気中で150℃120分加熱すると、シクロオリゴマーがフィルム表面に析出し、フィルム表面が凸凹になる。その結果、加熱後にPETフィルムのヘイズ値は大幅に増加する。透明ナノペーパーはセルロースナノファイバーだけでできており、それ以外に何も添加物を含んでいない。そのため150℃で120分加熱しても、透明ナノペーパーの表面は非常に平滑なままであり(図10)、透明ナノペーパーのヘイズ値は4.1-4.5%を保持し、高い透明性を保持していた。そして、当然ながら、加熱した透明ナノペーパーの全光線透過率は約90.1%で一定であり、その透過率スペクトルも加熱前後で完全に一致した。すなわち、透明ナノペーパーは、プリンテッド・エレクトロニクスにおいて、有望なフレキシブル透明基板といえる。
図1 大気中で加熱した紙の概観変化
左:写真紙(表面にポリマーが塗布してある)、中央:パルプ繊維だけで作製した紙(セルロースのみ)、右:ナノペーパー(セルロースのみ)
© Department of Functionalized Natural Materials ISIR, Osaka University